第45回全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント千葉県予選大会は、豊上ジュニアーズ(柏)の2年連続6回目の優勝で閉幕した。匝瑳東ベースボールクラブ(東総)との決勝は、18安打2本塁打の15得点に完封で4回途中で終了。王者の牙城は極めて堅固であった一方、初のファイナルまで躍進してきた匝瑳東も毎回安打で守ってはノーエラーを貫いた。戦評に続いて、ヒーローと敗軍の横顔をお届けしよう。
(写真&文=大久保克哉)
※記録は編集部、本塁打はすべてランニング
※※全国展望チーム紹介「豊上ジュニアーズ」➡こちら
優勝
=2年連続6回目
とよがみ
豊上ジュニアーズ
[柏市]
準優勝
そうさひがし
匝瑳東ベースボールクラブ
[東総/匝瑳市]
■決勝
◇6月21日 ◇国府台スタジアム
匝瑳東ベースボールクラブ(東総)
0000=0
0681=15
豊上ジュニアーズ(柏)
※4回裏途中、時間切れ
【匝】宮内勇、丸山駿、鶴岡ー伊藤龍、宮内勇
【豊】山﨑、中尾-神林
本塁打/中尾、村田(豊)
三塁打/後山、矢島、福井、中尾(豊)
二塁打/村田(豊)
【評】先攻の匝瑳東ベースボールクラブは、四球と四番・宮内勇翔の中前打で二死一、二塁。後攻の豊上ジュニアーズは連続四死球で一死一、二塁。どちらも初回に先制機を得たものの、先発した速球派の両投手が踏ん張った。
豊上の左腕・山﨑柚樹(=上写真)は2回表にも、匝瑳東の七番・鶴岡湊翔に左前打を許したものの、あとは3つのアウトをすべて三振で奪ってみせた。匝瑳東の右腕・宮内勇も(=下写真)、初回のピンチを最後は空振り三振で切り抜けた。どちらも球に力があり、タフな投げ合いとなりそうな雲行き。だが、これを一気に打ち払ったのが、豊上打線だった。
それは2回裏、先頭の六番・後山晴(5年)の左越え三塁打(=上写真)から始まった。続く矢島春輝の左中間三塁打(=下写真)でまず先制、さらに土屋孝侑の右前打で加点した。匝瑳東の宮内勇は、なおも無死二塁のピンチの投ゴロで好フィールディングを見せ、二走をタッチアウトに。しかし、2巡目に入った豊上打線は、スピードボールに確実に順応した。
止まらない豊上打線。一番・福井陽大の左越え三塁打と、二番・村田遊我の中前打で4対0とすると、四番・中尾栄道が左中間を破るランニングホームラン(=上写真)。さらに五番・山﨑の右前打で打者一巡となって、給水タイムが入る。匝瑳東は救援した丸山駿が、長い守りを終わらせたものの、続く3回につかまった。
豊上は二死一、二塁で迎えた二番の村田から、六番・後山までの5連打で再び打者一巡となって5得点。なおも四球を挟んでの代打攻勢で、濱谷悠生(=下写真㊤)と鈴木海晴(=下写真㊥)の連続タイムリーで14対0と、試合を一方的なものとした。
4回表、匝瑳東は五番・伊藤蓮の内野安打(=上写真)と四球で二死一、二塁とする。だが、豊上は左サイドの中尾が救援して空振り三振を奪うと、その裏、村田が左越えのソロホームランで完全にダメ押し(=冒頭写真)。四番・中尾の3安打目以降は、続々と代打が登場して、井上凌(=下写真)がチーム18安打目となる左翼線へヒット。そして長谷部奏多が二ゴロに倒れたところで、タイムアップとなった。
〇豊上ジュニアーズ・髙野範哉監督「下位打線の小さい子たちでも打球が飛んだのは、相手ピッチャーの球が速いから。2回にノーアウトから三塁打、三塁打、ライト前と、作戦も使うことなく2点取れたのが大きかったと思います」
●匝瑳東ベースボールクラブ・石毛勝宏監督「大会を通じて、選手たちはよくやってくれました。今日に関しては、決勝という初めての舞台で私を含めて、硬くなってしまった。よそ行きの野球になってしまったかなと思います」
―Pickup Hero―
世代最強“カルテット”も堅持、一廉のスター予備軍
ふくい・ようだい
福井陽大
[豊上6年/三塁手]
例年であれば、間違いなく『注目戦士』のコーナーでも紹介している万能のタレントだ。すらりと長い手足も器用に操り、打席ではコンスタントに快音を発する。50mを7秒2で駆けるスピードは、中堅守備でも走者となっても際立つ。有能な5年生の台頭により、同級生の村田遊我らとも激しくポジションを争いながら、どうやら古巣のホットコーナーに落ち着いたようだ。
この全国予選決勝では、両翼70mのフェンスがあれば確実に超えていただろうという、特大のタイムリー三塁打(=下写真)をレフトへ1本。そして大勝にも浮かれた様子はなかった。
「千葉県大会は圧倒できたので、全国大会でもこの勢いを忘れずに、圧倒できるような戦いをしていきたいと思います」
こう語る福井陽大は、1年前も一番・三塁で全国大会4試合にスタメン出場している。時には遊撃も守りながら、ベスト8までフィールドに立ち続けた。当時5年生での完全レギュラーは、神林駿采主将(『2025注目戦士⓳』➡こちら)と2人だけ。打率は.364と神林を上回り、準々決勝ではいきなりの右越え三塁打で奇襲攻撃の先陣を切り、連覇を遂げることになる新家スターズ(大阪)を大いに慌てさせた。
新チームとなっても、リードオフマンとして強力打線をリード。守る位置は一塁、二塁、左翼、三塁、中堅と変動してきたが、守れないからではなく、どこでもできるからだ。あまりにも計算の立つ優等生であるがゆえに、起伏に富む仲間たちの陰に隠れてきた感じもあるかもしれない。
「全国ではチームを引っ張っていけるように、キャプテン(神林)の手助けとか、そういうこともできる選手になりたいです」
真価が問われるのは、これから迎える2度目の全国舞台。個々の能力と意識は断トツに高いだけに、そのまとまりがカギになるだろうことを福井も肝に銘じているようだ。
同じく全国経験者の中尾栄道に、昨秋の関東大会で大会最速の103㎞を投じた山﨑柚樹(『2025注目戦士❶』➡こちら)、神林主将と福井を加えた世代最強“カルテット”は、当初から慢心がまったくない。大願が成就された暁には、当メディアでもそろって紹介したい。
―Good Loser―
3年目の明るい指揮官と、初めての「銀」へと大躍進
そうさひがし
匝瑳東ベースボールクラブ
[東総/匝瑳市]
ベンチ前での試合前ノックから、活気とさわやかな笑顔に満ちていた。
「ランナー三塁!」など、仮想の状況を選手へ発しながら、ノックバットを振るう石毛勝宏監督は43歳。元気で明るいシンボルのようだった。
「平均すると学年6人くらい。今の5・6年生は、小さいときから私も一緒に上がってきたので思い入れもありますね」
初のファイナルを前に、真剣な練習のなかに笑顔ものぞいた。石毛監督(上)は父親監督で3年目、
菅谷歩結と熱田翔空(下)の三遊間など5年生4人がスタメンに
石毛監督は就任3年目で、県大会の決勝まで勝ち進んだのはチームとして初めて。飛躍のきっかけは1年前の苦杯にあったという。今年と同様に、地域予選を勝ち抜いて県大会に出場したものの、1回戦で2対17という大敗。その相手が豊上ジュニアーズだった。
「あの大敗後、取り組み方とか、もっと濃い時間を過ごそうとか、みんなで話し合いました。そして決めた通りに、選手たちががんばってきてくれたことが、ここまで来られた要因だと思います」(同監督)
機動力とつなぐ打撃に、堅実な守備がベース。僅差の勝負をものにしながら勝ち進んだ先に、絶好の舞台が待っていた。豊上との決勝だ。ここで1年前の大敗の借りを返せば、全国初出場も決まる。
「全国レベルというものを1年前に肌で感じたのが大きかったし、豊上さんに感謝しています。勝たなきゃ全国もない。ただ、ウチは相手のことより、自分たちのやれることを全員が出し尽くそうということをいつも確認して試合に入ります」(石毛監督)
そしていつも通りに開始を迎えた決勝。1年前に近い大敗となったが、彼らのベースは失わなかった。守りはノーエラーで通し、攻めては4安打ながら毎回のヒットだった。3回には中前へクリーンヒットを放った5年生の伊藤龍成が、強肩の相手バッテリーに怯むことなく二盗を決めた。
2回表、八番・丸山駿は結果は三振ながら3球ファウルなどフルカウントまで粘った(上)。宮内勇主将(下)はマウンドでもマスクをかぶっても光るものが
また、最速110㎞を誇るエース兼主将の宮内勇翔は、長短打7本を浴びて2回途中6失点で降板。しかし、持ち前のスピードボールで、真っ向から勝負したことには悔いはないと語った。マウンドを降りてからはマスクをかぶり、投手陣を懸命にリードしながら強肩も披露し、「あのキャッチャーはウチの神林(駿采)より間違いなく上ですね」と、敵将も試合後に脱帽していた。
「決勝に来るまでには、すごく緊迫した試合もありました。準優勝でも出し切れたと思います」(宮内主将)
イニングの途中に「水入り」となるほど、長い守りも続いた。それでも指導陣は感情的になることもなく、かといって選手たちに弛緩したムードもなし。「まだ出し切れてないぞ!」と、力のある声で子どもたちの背中を押していた石毛監督は、指導陣に共通するスタンスをこう説明した。
「選手がどう活躍できるか、能力をどう引き出せるか。そのための声掛けだったりを、コーチ陣と一緒に考えて。選手が動きやすいように、ということを意識してやっています」
打線の一番から三番と九番の4人は5年生。4年生の背番号0、石毛偉心は監督の次男坊だ。全国区の名門チームに、2年分の大きな借りを返す時が、いずれやってくるのかもしれない。